腰痛は誰でも一生のうち少なくとも一度は罹患する。性別、年齢、職業を問わず発生している。しかも、急激に発症する腰痛捻挫(急性腰痛症、ぎっくり腰、Hexenschuss魔女の一撃)から、慢性に経過する腰痛。腰痛のみならず、下肢放散痛、排尿障害をともなうもの、手術を要する腰痛まで症状は多彩に富んでいる。
厚労省の国民生活基礎調査によれば、病気やケガ等で自覚症状のある「有訴者」の統計では、男性では「腰痛」「肩こり」「鼻がつまる」、女性では「肩こり」「腰痛」「手足の関節が痛む」の順となっており、腰痛は人類のもっとも多い訴えとなっている。
<診断のポイント>
一般的な諸検査では、原因が明確でない腰痛。慢性の筋疲労、姿勢性の原因が考えられるもの、腰椎の椎間関節の捻挫とも考えられるものなど。
<診断のポイント>
最初は、腰痛、間もなく片側性の下肢しびれ、下肢放散痛を来す。姿勢が傾く、歩行困難。下肢から足部にかけての知覚異常、足部の筋力低下。稀に排尿障害。MRIが有用。
<診断のポイント>
脊椎の加齢変化。レントゲン上、椎間板や椎間関節の狭小化、骨棘形成。腰痛の原因としては意義が少ない。
<診断のポイント>
高齢者の腰痛、下肢痛、しびれ感(坐骨神経痛)、立位を維持したり、歩行すると下肢のしびれ。椅子に座ったり、前かがみになると症状軽減する。排尿障害をともなうこともある。
<診断のポイント>
分離症は、生まれつきのこともあるが、青少年の激しいスポーツ活動によって腰椎椎弓の疲労骨折によることが多い。分離症に引き続いて、すべり症が発生することがある。
<診断のポイント>
中高年以後で分離症なしに発症し、腰部脊椎管狭窄症の一原因ともなり、手術を要することもあり、椎体の不安定性がある場合には手術を要する。
<診断のポイント>
全身倦怠感をともない、体動が困難(脊柱不橈性高度)で発熱、白血球数増多、CRP高値の場合は、この疾患を疑って検査する。安静(コルセットも有用)と抗生物質の投与。
<診断のポイント>
腰痛ともに多くの症例で、下肢症状(しびれ感、麻痺、知覚麻痺、筋力低下)をともなう。レントゲン、MRIで診断できる。
<診断のポイント>
腰痛、とくに安静にしていても持続性の腰痛。他部位の悪性腫瘍(ガン)の確認。
<診断のポイント>
転倒、尻もちをついたときなどに脊椎(椎体)に骨折が発生する。中高年、骨粗しょう症を有する女性に多い。
背骨(脊柱)の変形、動きなどの観察
坐骨神経の伸展テスト(下肢挙上テスト)、下肢腱射(含 病的反射)、筋力、知覚(痛覚、触覚など)※この診察によって、単なる腰痛なのか、神経症状をともなった腰痛なのかを診断し、次の段階に移る。
骨の形状、椎骨のアライメント骨と骨との関係(隙間)、椎間板の痛み具合がある程度わかる骨の質、骨折、骨の腫瘍などの診断。
X線撮影とほぼ同様だが、骨の形、骨の内部が詳しくわかる。
軟骨と神経との関係などがよくわかる。
薬物療法(含 注射)
リハビリ
ブロック療法(神経を一時的に麻痺させる注射)
※当院では上記の保存的療法を種々組合せ患者に合わせた治療を行っています。
当院では以下の手術を行っています。
腰椎(椎=骨)と腰椎との間にあって、いわばクッションの役目をしている椎間板(軟骨)が何かの拍子に傷んで、飛び出し、そこにある神経(神経根という)に当たり、腰痛と下肢(あし)の痛み(放散痛、走る痛み)としびれ感が生ずる疾患。
20歳代、30~40歳代など活動性の高い年齢層にみられることが多いが、最近では10歳代でもみられることも多く、50~60歳代にも発症する。
腰椎は5枚あり、1番よく動く第4、第5腰椎間(L4/L5間と略す)、次いで第5腰椎、仙椎間(L5/S1と略す)が多いとされている。
急性期単純X線像だけで腰椎椎間板の診断はできない。この疾患以外に、変形性脊椎症、腰椎圧迫骨折、腰部脊柱管狭窄症の示唆、悪性腫瘍の腰椎転移など鑑別の一助となりうる。慢性期になると、腰椎側画像で椎間板腔が狭小化している部位があれば、腰椎椎間板ヘルニア(L4/L5、あるいはL5/S1が多い)も疑われるが確定診断にはなりえない。
腰椎椎間板ヘルニアの診断にもっとも役立つ検査法である。
腰椎椎間板ヘルニアの多くは手術をしなくても症状が軽快することが多い。 かといって、長期間寝ていると、体幹あるいは全身の筋力が衰え結果はよくないことが多い。安静と運動を組み合わせた保存的治療が原則となる。
腰椎椎間板ヘニルアでは必ずしも手術は必要ではない。手術の必要性を考える場合としては、
などである。
手術には、腰の後側を切開して(後方アプローチ)ヘルニアを摘出する方法と、腹部を切って腰椎の前方からアプローチする方法があるが、現在多くは後方アプローチの手術である。
腰の後側の真ん中を切開して、椎弓という部分に達し、その椎弓の一部を削り(開窓)、
神経根を寄せて(避けて)ヘルニアを摘出する方法。
肉眼的に病巣部の上下の椎弓の一部を削り、神経根を避けてヘルニアを摘出する。
過去の腰椎椎間板ヘルニアの手術では、ルーチンの方法であった。
腰部に小切開を加え、術野を顕微鏡(4倍程度)で拡大して、椎弓の一部を削り、ヘルニアを摘出する。肉眼的に確実にヘルニアを摘出でき、切開も小さくて済む方法。
内視鏡による手術で、切開創は小さく、ヘルニアを摘出できるが、手術時間は術者の手技に依る。
腹部から腰椎に到達する方法。椎間板摘出と同時に腰椎前方固定術(腰椎と腰椎を癒合させる手術法)を行うこともできる。現在は行われることは稀である。
どのような手術法によっても、腰椎に手術というストレス(キズ)を負っている訳なので、当分の間(2~3週間程度)は過激な動作は控え目にする。術後の日常生活での姿勢、体動も腰に負担がかからぬように注意する。多くの病院では、短期間でも腰椎コルセットの装着の必要性を認めている。手術後は再発防止のため、腰痛体操が必要。
手術方法によっては、術直後(1日目)から起立歩行できるものから、数日間安静を要することがある。短期間の腰椎コルセットが必要なこともある。下肢の痛みは、術直後にとれ、足の動き(筋力)は早急に回復するが、足部のしびれ感(知覚鈍麻)は術後かなり遅れる。
腰部脊柱管狭窄症とは、背骨の連なっている脊柱の脊柱管内に脳から起こっている脊髄神経が脊柱管内の骨あるいは周囲軟部組織によって押さえつけられて、神経症状が出てくる病気である。
高齢者、男性の変形性脊椎症にみられることが多い。変性すべり症による腰部脊柱管狭窄症は女性に多い。L4/L5に多い。
腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状。
確定診断は出来ないが、脊柱管のおおよその大きさを知ることが可能で、変形性脊椎症、脊椎分離症、脊椎分離すべり症、脊椎変形性すべり症の所見を把握することは必要である。
脊柱管内での脊髄と骨、椎間板、黄色靭帯馬尾神経、神経根などとの関係がよくわかり、診断のみならず、治療方針の大いなる参考となる非常に有用な検査。
脊柱管の形状、特に脊柱管を骨性突起物で狭窄している状況を知るのに有用。
腰痛よりも、下肢のしびれ感、脱力感が主体で、長時間の立位や歩行、腰椎の後屈により、異常感覚が生ずる
「馬尾神経型」は保存的治療は困難である。
疼痛の薬物療法(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、プレガバリン)以外に末梢血管拡張作用のあるPGE(プロスタグランジン)などを用いる。
硬膜外ブロック、神経根ブロック、などが有効なことがある。
腰部脊柱管狭窄症用の腰椎コルセットもかなり有用である。
温熱療法、電気治療とともに腰痛体操が効果的なことがある。
馬尾症状のある患者は、保存的治療には反応しがたい。手術療法を要することが多い。脊髄を圧迫している骨性障害物あるいは軟部組織を除去する。そのためには、椎弓切除術を行って、これらを取り除く、除圧が主体となる。しかし、腰椎すべり症を合併したり、腰椎の不安定性がある場合には、脊椎固定術も必要である。
中高年の脊椎に屈曲圧迫力が働くことにより(転倒、尻もちをつく)、脊椎(椎体)に骨折が発生する。多くは骨粗鬆症が基盤にある。高齢社会を迎えて、骨粗鬆症患者に明らかな転倒などの外傷がみられないのに、脊椎圧迫骨折が発生し、「いつのまにか骨折」と巷間で言われている。
中高年、骨粗鬆症を有する女性に多い。ただし、青壮年の男性では高所からの落下によるものが多い。
胸郭で可動性の少ない胸椎と比較的可動性のよい腰椎との境界部(胸腰椎移行部)、すなわち、第11、12胸椎、および第1、2腰椎に多い。
腰背部痛、とくに体動により増悪する。
「いつのまにか骨折」の場合には、体動とくにお辞儀によって病院を受診することがある。
ひどい外傷の場合には、脊椎の脱臼骨折となり、脊髄損傷(対麻痺、パラプレンジア)を生ずることもある。そのため脊椎骨折が疑われる患者さんでは下肢の神経症状の有無の確認、万一、脊髄損傷を合併しているときは排尿、排便(膀胱直腸障害)を来す。脊椎の激痛をともなう可動性の低下、胸腰椎移行部の叩打痛。
脊椎椎体の楔状変形の有無を確認する。
診断するうえで最も確実な検査である。
椎体の前方、真ん中あたりの圧迫骨折により、椎体の後方(後壁)が脊柱管内に突出し、脊髄神経への圧迫が起こる危険性がある。この場合は、骨片の整復が必要であり、椎体形成術が必要である。
脊椎圧迫骨折で、椎体の後壁の破壊によって骨片が脊椎管内に突出する場合に行う。X線透視下に針を後方から刺して、椎体内にハイドロキシアパタイトあるいは骨セメントを注入して固定する方法。全身的な侵襲が少ない。